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横浜地方裁判所 昭和41年(ワ)675号 判決 1968年7月09日

原告 株式会社神奈川マツダ

被告 木村稔こと郭道容

主文

被告は原告に対し、金二六九、〇三〇円、および、内金二六二、〇〇〇円に対する昭和四一年六月一日から、内金七、〇三〇円に対する同年七月八日から、各支払がすむまで各年六分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、主文第一項につき仮に執行することができる。

事実

(双方の申立)

一  原告訴訟代理人は主文同旨の判決および仮執行の宣言を求めた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求めた。

(原告請求原因)

二(一)(1)  自動車販売修理業を営む原告は昭和四〇年九月一日土建業を営む被告に対し、その事業用として、中古貨物自動車(マツダ号六三年式DVA一二D型車台番号四七、三〇三。以下「本件ダンプカー」という。)を代金三九七、〇〇〇円で売却し(以下「本件売買」という。)、右代金支払方法は、即日被告から中古貨物自動車(マツダ号六一年式DVA一二D型車台番号一四、五五七登録番号相模四ほ三三六九。以下「本件下取車」という。)を金五〇、〇〇〇円と評価して下取しこれを右代金内入とし、同年一一月七日金二五、〇〇〇円、同年一二月から昭和四二年一月まで毎月七日(但し、毎年一月分は一月一五日)金二三、〇〇〇円宛分割して支払うことを約定し、即日本件ダンプカーを引渡した。

(2)  被告は本件売買の際原告に対し、代金支払を怠つたことを理由に本件売買が解除されたときの違約損害金として、本件売買代金相当額と返還時の本件ダンプカーの時価の差額が通常の使用料を超えるときはその額を支払い、従前支払つた代金返還請求権でその内入弁済をする旨約定した。

(二) 被告は原告に対し、本件下取車を引渡し、第一回割賦金内金二三、〇〇〇円を支払つただけで、その後割賦金の支払をしない。そこで、原告は昭和四一年三月一一日到達の内容証明郵便で被告に対し、弁済期の到来した未払割賦金九六、〇〇〇円を七日以内に支払うよう催告したが支払わず、さらに、原告は同年四月一七日到達の内容証明郵便で被告に対し、弁済期の到来した未払割賦金一一七、〇〇〇円を五日以内に支払うよう催告したが支払わない。

そこで、原告は同年五月九日到達の内容証明郵便で被告に対し、右割賦金支払遅滞を理由に本件売買を解除する旨意思表示したので、同日解除された。

(三) 原告は同年四月中旬頃被告から、割賦金支払遅滞のときは本件ダンプカーの返還を求めることができる旨の約定にしたがい、その返還を受けていたが、本件売買が被告の割賦金支払遅滞により解除されたので、前叙(一)(2) の約定により、本件売買代金相当額三九七、〇〇〇円と返還時の本件ダンプカーの時価金六二、〇〇〇円との差額金三三五、〇〇〇円はその通常の使用料を超えるので、その額を違約損害額とし、従前支払つた代金七三、〇〇〇円の返還請求権を右内入とし、残額金二六二、〇〇〇円の支払請求権を有する。

(四) 原告はそれぞれ被告から本件ダンプカーの修理を請負い、(1) 昭和四〇年一一月二二日フロントバンバー脱着板金等の修理をしその代金二、六〇〇円、(2) 同年一二月二日ウオーターボブ等の修理をしその代金三、七三〇円、(3) 同年同月一三日アクセルペダルリング脱着修理をしその代金七〇〇円となつたが、被告はその支払をしない。

(五) よつて、原告は被告に対し、右本件売買解除による約定の違約損害金二六二、〇〇〇円、右(四)の本件ダンプカー修理代金計七、〇三〇円(合計金二六九、〇三〇円)、および、右違約損害金二六二、〇〇〇円に対する履行遅滞後の昭和四一年六月一日(支払命令送達の翌日)から、右修理代金七、〇三〇円に対する履行遅滞後の同年七月八日(本件訴状送達の翌日)から各支払がすむまで商法所定各年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の答弁、仮定抗弁)

三(一)(1)  原告請求原因(一)(1) の事実は認める。

(2)  同(一)(2) の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実のうち、被告が原告に対し本件下取車を引渡し、第一回割賦金内金二三、〇〇〇円を支払い、その後の割賦金の支払をしないことは認めるが、その他の事実は争う。

(三) 同(三)の事実のうち、被告が原告主張の頃原告に対し、原告主張の趣旨で本件ダンプカーを返還したことは認めるが、その他の事実は争う。本件ダンプカーの返還時の価額は少くとも金二〇〇、〇〇〇円以上である。被告が本件ダンプカーを買受けた当初から故障がちで殆んど使用せず損耗が少なかつたもので、僅か半年後に一拠に六分の一以下に値下りすることは到底ありえず、年式の古くなつたことを考慮しても本件売買代金の約二分の一の金二〇〇、〇〇〇円以上である。

(四) 同(四)の事実のうち、被告がそれぞれ原告に対し、本件ダンプカーの修理を請負わせたことは認めるが、その他の事実は争う。原告は被告から請負つた修理を完成しておらず、僅か二〇日間のうちに三度も修理しなければならなかつたことはそれを裏づけるものであり、そのため、被告は他に請負わせて修理しなければならなかつたもので、修理代金支払義務はない。

(五) 被告が違約損害金支払の義務を負うものとしても、原告は昭和四一年三月頃本件ダンプカー返還の際被告に対し、本件売買解除による違約損害金請求権を放棄したので、右債権は消滅した。

(被告仮定抗弁に対する原告再答弁)

四 被告の違約金放棄についての三(五)の主張事実を否認する。

(証拠)<省略>

理由

一  本件売買成立に関する原告請求原因(一)(1) の事実は当事者間に争いがない。

二(一)  被告が原告に対し本件下取車を引渡し、その代金五〇、〇〇〇円を本件売買代金の内入とし、第一回割賦金内金二三、〇〇〇円を支払つただけで、その後割賦金を支払つていないこと、原告が昭和四一年四月中旬頃被告から本件ダンプカーの返還を受けたことは当事者間に争いがなく、各成立が争いのない甲第一、第二号証、甲第六から第八号証の各一、二、証人中崎彪の証言から成立が認められる甲第九号証、および、証人田口満弥、同中崎彪、同中村喜一の各証言を総合すると、つぎの事実が認められる。

(1)  被告は本件売買の際原告に対し、代金支払を怠つたことを理由に本件売買が解除されたときの違約損害金として、本件売買代金相当額と返還時の本件ダンプカーの時価の差額が通常の使用料を越えるときはその額を支払う。適正価額で自動車を処分したときはその処分価額から自動車の回収費、修理費、部品代金その他必要経費を控除した残額を時価とみなし(特約第一五条(2) )、原告が既に受領した即時金、割賦金は違約損害金に弁済して清算し(同第一五条)、割賦金を一回でも支払を怠ると期限の利益を失い(同第九条第八条(1) )、原告は被告に対し本件ダンプカーの返還を求めることができる(同第一五条第一段)旨特約した。

(2)  原告は昭和四一年三月一一日到達の内容証明郵便で被告に対し、弁済期の到来した未払割賦金九六、〇〇〇円を七日以内に支払うよう催告したが被告はこれを支払わず、さらに原告は同年四月一七日到達の内容証明郵便で被告に対し、弁済期の到来した未払割賦金一一七、〇〇〇円を五日以内に支払うよう催告したが、被告は支払わなかつた。そこで、原告は同年四月頃被告から、割賦弁済の利益を失つたことを理由に前叙(1) の約定により返還を受けた上被告から代金支払を待つた。しかし、被告は依然支払わないので、原告は同年五月九日到達の内容証明郵便で被告に対し、右割賦金支払遅滞を理由に本件売買を解除する旨意思表示した。

(3)  本件ダンプカーの返還時の時価は、原告の指定した鑑定人である原告社員中崎彪(日本自動車査定協会神奈川県支部査定委員)が査定し、金六二、〇〇〇円と評価した。その根拠は、昭和四一年四月中旬当時の本件ダンプカーと同一型式のダンプカー中古車の市場価額が金二五〇、〇〇〇円であり、本件ダンプカーを修理復元して右と同様の中古車とするのに要する費用金一五〇、〇〇〇円(走行粁数五七、〇〇〇粁、被告が砂利等の運搬に使用し損耗していること、車検番号等も考慮した。)、原告会社の手数料諸経費金三〇、〇〇〇円、査定標準価額との偏差値金八、〇〇〇円(減)で、これらを差引いた残存価額が金六二、〇〇〇円となり、それが本件ダンプカーの時価である。この基礎となつた算定方式は、日本自動車査定協会の定めた基準により、その方式は一般に承認されている。

(二)  右認定(一)(1) に反し「認定(1) のような約定をしたことがない。」旨述べる被告本人尋問の結果についてみると、右認定の違約金支払条項は割賦販売法の規定をそのまま特約に表示したのにすぎず、このような条項による自動車割賦販売方法は一般によく知られ、この方式で売買するのが通例であるところ、それを排除するような合理的理由の見当らない本件では、右被告本人尋問の結果はにわかに信用できない。他に、右認定(一)を左右する証拠はない。

(三)(1)  前叙一の争いのない事実、同二(一)の争いのない事実、認定事実によると、本件売買の解除の意思表示は、被告の責に帰すべき割賦金支払遅滞を理由とするので有効であり、被告は前叙(一)(1) 認定の違約金支払の約定にしたがい原告に対し違約損害金を支払う義務を負う。

(2)  右(1) の違約損害額算定の基礎となる本件ダンプカーの返還時の価額について検討する。右時価の算定方式をどのようにみるかによつてその価額が異なるので考察するのに、前叙認定(一)(1) の特約は直接的ではなく、他にこのような価額算定方式の特約は存在しない。(もつとも、甲第二号証によると、「その価額については原告の指定した鑑定人の定めたところに従う。」旨の特約が認められるが、これをとつて、算定方式を右鑑定人に一任した特約とみるのは、他の場合を含む規定である同条の形式、性質からみて相当とはいえない。)一般に、自動車販売業者が割賦金未払を理由に解除し売買の目的物である自動車の返還を受けその時価を評価しこれを違約損害金に充当し清算することを特約する目的は、返還当時の損耗した自動車を経済的に採算のとれる範囲で修理して同種同型の中古車として通常の性能を有する状態に復元できる場合にはその修理をして復元し、その転売利益を得ようとするところにあり、自動車の買主もまたその趣旨を承諾してその特約をしているものとみるのが相当である。したがつて、返還時の自動車価額算定の方式は、同種同型の自動車(中古車)市場価額から、転売できる状態に復元するのに要する修理費用、自動車販売会社の諸種の手数料、売却利潤を差引いた価額(復元価額)による方式とするのが、右特約の趣旨に沿い合理的である。これに対し、返還時の自動車は、そのままの状態で運転可能な場合もあり、この場合、売買価額から使用中に損耗した割合を差引いてその価額を算定することもでき、この方法で評価した場合には、一般に復元価額方式により評価した場合より高額の評価となるが、この損耗減価方式によると、自動車販売会社がそのような修理前の転売不確実とみられる自動車をそのままの価額で評価し引取ることを特約したものとみるべき合理的理由が見当らない。本件では、さらに、引取つた自動車を処分した場合の価額算定に関する前叙認定(一)(1) の特約が復元価額方式をとつていることからみても、右のような場合復元価額方式に従うとみるのが当事者双方の目的に合致する。それ故、原告が本件ダンプカーの返還時の価額を評価するのに前叙(一)(3) 認定のように復元価額方式をとつたのは正当である。

つぎに、被告は、本件ダンプカーの評価が不当である理由として、「本件ダンプカーは当初から故障がちで殆んど使用せず損耗が少なかつたもので、僅か半年後に一拠に六分の一以下に値下りすることはありえない。」旨抗争するが、その前段の主張が失当で事実に沿わないことは後述四説示のとおりであり、その使用期間が短いのに損耗度合は大であつたというほかないから失当に帰する。

したがつて、本件ダンプカーの返還時の価額は金六二、〇〇〇円とするのが相当である。

(3)  本件ダンプカーの一カ月の通常の使用料についてみるのに、一般に割賦金額がほぼ通常の使用料額にあたるよう定められるのがこの種取引の通例であることは当裁判所に顕著な事実であるから、特段の事情のない本件では、その使用料は割賦金相当額の金二三、〇〇〇円とみるのが相当であり、本件売買代金三九七、〇〇〇円と返還時の本件ダンプカーの時価金六二、〇〇〇円との差額金三三五、〇〇〇円は、本件ダンプカーの引渡を受けた昭和四〇年九月一日から返還をした昭和四一年四月中旬までの通常の使用料額を越えること計算上明らかであるから、前叙認定(一)(1) の約定により、違約損害額は金三三五、〇〇〇円となる。そのうち、被告がすでに原告に支払つた代金は合計金七三、〇〇〇円で、その解除に伴う返還請求権は、前叙認定(一)(1) の約定により右違約損害金の内入弁済(代物弁済または相殺)とされたことになるから、被告が原告に対し支払うべき違約金残額は金二六二、〇〇〇円である。

三  「原告は昭和四一年三月頃本件ダンプカーの返還の際被告に対し、本件売買解除による違約損害金請求権を放棄した。」旨の被告主張はこれを認めることのできる証拠がないばかりでなく、被告本人尋問の結果によると、右の事実を否定し、「本件ダンプカーを返還したのは割賦金を支払えないからであり、割賦金を支払えるようになつたらまた返してくれる約束だつたが、その後も支払えなかつた。」と述べているのであるから、原告が違約損害金を放棄する意思表示をしたものではないというほかない。したがつて、前叙被告主張は失当である。

四(一)  原告が昭和四〇年一一月二二日、同年一二月二日、同年同月一三日の三回にわたり被告から本件ダンプカーの修理を請負つたことは当事者間に争いがなく、各成立が争いのない甲第五号証の一から三、および、証人中村喜一、同中崎彪、同鈴木健造(但し、一部認定に反する部分を除く。)の各証言を総合すると、つぎの事実が認められる。

(1)  本件売買の際に、原告は通常の使用に耐えられる程度の性能のある本件ダンプカーを被告に引渡したが、被告が砂利等の運搬をしているうち、何らかの原因で何物かに衝突し、フロントバンバー等をかなり損傷し、被告の使用人運転者鈴木健造が昭和四〇年一一月二二日原告に対し、フロントバンバー脱着板金、フロントバンバーステ曲り修正、フロントフエンダー板金の修理を請負わせ、原告社員中村喜一が右部分につきその頃修理を完了し、試運転したところ、時速四〇粁から五〇粁で走行しても何らの異常がなかつたので、これを被告に引渡し、その代金は金二、六〇〇円である。

(2)  原告は同年一二月二日被告の使用人運転者から、当時冬で水が氷る等のためウオーターポンプに故障を生じたのでそのオーバーホールと、シール、ベアリングの取替の修理を請負い、その頃完成して引渡し、その代金は金三、七三〇円である。

(3)  原告は同年一二月一三日被告の使用人前叙鈴木から、アクセルペダルリング脱着修理を請負い、その頃完成の上引渡し、その代金は金七〇〇円である。

(二)  右認定(一)(1) に反し、「被告が原告から買受け引渡を受けた当初からハンドルが震え、二〇粁以上の速度が出せなかつた。」旨述べる被告本人尋問の結果についてみるのに、これを裏づける証拠がないのでにわかに信用できない。また、「ハンドルが震え通常の運転ができなくなつたのは第一回目に修理に出す前である。」と述べる証人鈴木健造の証言についてみると、前叙認定のように、被告が売買による引渡を受けた後第一回修理前に何らかの原因による衝突事故のあつたことは明らかであり、もし、右証言のようにハンドルの震えが生じたものとしても、それは右衝突事故の後であるとみるほかないから、当初からそのような故障があつたとする前叙被告本人尋問の結果を裏づけるものではない。したがつて、事故車を買わされたとの被告本人尋問の結果の意見部分は根拠がないというほかはない。

右認定(一)に反し、「第一回から第三回の修理は、すべて、ハンドルの震えを直すよう頼んだものであり、他の部分の修理を頼んだことはない。」旨述べる証人鈴木健造の証言、被告本人尋問の結果中、後段の「他の部分の修理を頼んだことがない。」との部分は、その根拠に乏しく、甲第五号証の一から三の記載に反するので、にわかに信用できない。

右認定(一)に反する証人佐川正の証言は、その内容が被告本人および亀田某から聞知した事柄であり、日時内容につき証人鈴木健造の証言と齟齬し、その根拠が薄弱でにわかに信用できない。

他に前叙認定(一)を左右する証拠はない。

(三)  前叙(一)の争いのない事実、認定事実によると、原告は被告から前叙認定のような本件ダンプカーの各部分の修理を請負いそれぞれ完成の上引渡しており、その修理代金は合計金七、〇三〇円(計算上明らか)であるといえる。被告の抗争中、「ハンドルの震えについて以外は修理を請負わせない。」との主張部分が失当であること前叙のとおりであり、たとえ、被告が原告に対し、ハンドルの震えについての修理も同時に請負わせ、その修理が未完成であつたとしても、原告は本訴でハンドル関係部分についての修理代金を請求せず、前叙認定の各修理部分はハンドル関係部分の修理とは無関係に独立して修理の目的を達することができる(この点については証人中崎彪、同中村喜一の各証言を総合して認められる。)のであるから、このことをもつて、本訴修理代金を拒むことはできない。

五  以上のとおりであるから、被告は原告に対し、前叙二の約定による違約損害金二六二、〇〇〇円、前叙三の修理代金七、〇三〇円合計金二六九、〇三〇円、および、違約損害金残金二六二、〇〇〇円に対する履行遅滞後の昭和四一年六月一日(支払命令送達の翌日であることは記録上明らか)から、修理代金七、〇三〇円に対する履行遅滞後の同年七月八日(本件訴状に代わる準備書面送達の翌日であること記録上明らか)から、各支払がすむまで商法所定各年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。原告本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高木積夫)

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